2015年11月14日土曜日

奴隷のしつけ方

久々にローマ関係の本を見つけたので購入。
その名も「奴隷のしつけ方」

”奴隷”というと、鞭で叩かれながら大きな石を運びピラミッドを作り、酷使されたあげる命を落とす、そんな過酷な使役を思い浮かべる方が多いと思います。
奴隷と一口に言っても、それは時代や文明によって大きく内容が異なります。
本書は、古代ローマ時代の奴隷とはどういうものだったのか、マルクスという架空の人物による指南書という体裁で紹介する本です。古代から遺っている蔵書の中に、断片的に触れられている奴隷についての記述をわかりやすくまとめられています。

内容は、主人の心得、奴隷の買い方、奴隷の活用法、奴隷の罰し方、奴隷の解放といった運用面についての説明と、奴隷と性、奴隷は劣った存在かなど風俗や社会通念にも踏み込んでいます。

古代ローマファンとして、通常のローマ本からはなかなか知り得ない奴隷の実情を知るのは楽しいことですが、本書から何かしら現代に活かせる内容を読み取るのもまた面白いかと思います。
昨今は”ブラック企業”という言葉が生まれ、従業員が自らを自虐的に”社畜”なんて呼ぶこともあります。従業員と奴隷はもちろん全然違いますが、”人にどう仕事をしてもらうか”という点では、共通する部分もあるのではないでしょうか。

古代ローマ時代の奴隷は、基本的には戦争で敗れた他国民です。他には借金のカタに自分を売った人、孤児、海賊に誘拐されて奴隷商人に売られた人たちがいます。
奴隷の仕事は、農園や鉱山の肉体労働だけでなく、給仕や清掃、雑務、帳簿の管理、理髪、教師、医師など多岐に渡ります。奴隷のスキルに合わせてなんでもしていました。現代でいえば、労働力であり、家電であり、パソコンでもありました。ローマ市民(自由民)との相違点は、主人の所有財産であり、法的な人格を持たなかったことです。

しかしながら当然奴隷も人間。
喜びもするし腹を立てたりもします。戦争で負けて奴隷にはなったものの、できれば人間として生きたいと望みます。
ですから、いかに主人の所有物といえども、モチベーションが無ければ全力でサボりますし、残酷に扱えば主人の寝首を掻くこともあります。

そういうわけで主人は、いかに奴隷をマネジメントし、お値段以上の価値を出させるか、苦慮していたわけです。

奴隷との関係は、購入のときから始まります。奴隷の相場価格は、今でいうと40万円くらいでしょうか。けっして安くはない買い物ですので、いかにサボらない、勤勉で忠誠心のある奴隷を見つけるか、そこから勝負なわけです。また農場か、給仕か、財務か、必要な仕事にあわせて奴隷を探さないといけません。

*奴隷の価格は1000セステルティウス。4人家族の主食2年分だそうです。ローマの長い時代では一概に換算できませんが、パンの価格から計算すると40万円くらいになるようです。

そして購入をしたら短期間で仕事を覚えさせ、使いこなさなくてはいけません。
飴と鞭をバランス良く使い分けます。甘すぎると増長し、厳しすぎると反抗します。
金銭であったり、ワインであったり、自由時間であったり、または責任ある立場を与え、向上心を呼び起こします。少々の失敗はきつく罰せず、とはいえ他の奴隷に示しがつく程度の罰則を課します。
怒るべき時には怒ります。必要であれば懲罰代行サービスを呼び、むち打ちなどさせます。自分で行わず第三者を挟むのは、自分への恨みを逸らす効果があります。ただし奴隷はあくまで財産ですので、罰しすぎて体調を崩させては仕事になりません。
そして最後は奴隷を解放することができます。奴隷解放にも税金がかかりますが、自分に尽くしてくれた奴隷への最大の労いとなります。解放した奴隷には、快く独り立ちのお膳立てをしてやり、新しい人生の門出を祝ってやります。

こうして良い働きには報い、悪い行いは公正に罰し、家族(ファミリア)という社会単位のバランスを絶妙に取るのです。

年老いて使えなくなった奴隷は捨てるのではなく、最後まで責任を持たなければなりません。無意味に何百人も奴隷を買って金持ちアピールをするのではなく、品とスキルのある奴隷を使いこなすのが主人の評価をあげます。リーダーは生まれつきリーダーなのではなく、”なる”ものです。そして主人と奴隷の違いも生まれつきではなく、運命のいたずらに過ぎないのです。
公正に寛大に振る舞い、過ちを許し、言葉をかわし、食事を共にする。
これが古代ローマ人のあるべき主人の姿です。

本書にはこうした奴隷をいかに使いこなすかということについて、例を交えて解説しています。
読み通してみると、「自分はこの本に出てるような、いけすかない主人になってしまっていないだろうか?」「自分はブラックなファミリア運営をしてしまっていないだろうか?」「自分の従業員が最大限のパフォーマンスをあげるようなマネジメントできてるだろうか?」「従業員の独立を、祝ってあげられてないな」なんていろいろ気付くかもしれません。

そんな古代ローマを紐解く「奴隷のしつけ方」。一度読んでみてはいかがでしょうか。最後に、従業員を奴隷扱いするのはダメ、絶対。