2012年10月28日日曜日

本の紹介:妻を帽子と間違えた男

Pという男性は音楽家で、ユーモアがあり、精神的に異常もない健康な男性だった。

しかし、Pは、自分の生徒が近くにいても気づかない事がたびたびあり、また家具の彫り物に話しかけたり、消火栓の頭を、子供たちにするようにポンと叩いてた。
あまつさえ、部屋を出るときには、帽子を探して、おもむろに彼の妻の頭を掴んで被ろうとした。


テストをするとPは、多面体などの、物の形は正常に理解できた。
しかし、例えばバラの花を見せても、「立体としての形」は理解できても、それが「バラ」だと理解できなかった。

家族の写真を見せても、それが「何」なのか理解できない。誰の顔なのか、どんな表情なのかすらも。



あるところに入院中の患者がいた。
ある日彼は、自分のベッドに切断された人間の足があるのを見つけた。
誰かがいたずらで自分のベッドに入れたのだろうか?

悪ふざけに怒った患者がその足をベッドの外に放り投げると、なぜか自分の身体ごとベッドから落ちた。

その足は自分の身体と繋がっていたのだ。
気持ち悪いと騒ぐ男。

だけど、その足は、紛れも無くその患者本人の足だ。
なぜ、この患者は、自分の足を自分のものと認識できなくなったのだろう?

なぜ、前述のPは、ものの形と意味を紐付けられなくなったのだろう?



人の脳は非常に複雑で、それ一個が機能を持っているわけではありません。
物の形を把握したり、意味を考えたり、記憶したり、判断を下したり、さまざまな役割を持った部分が有機的に結びついて機能を発揮し、そして個人が形作られます。
その中に1つの機能が欠損してしまったら。

我々には考え難い反応をするようになるそうです。




「妻を帽子と間違えた男(著:オリバー・サックス)」は、そのような脳における障害をもった24人の症例を紹介しています。
症例の解決がされたわけではない。どうすればいいのかも記してはくれていません。
ただ、ユーモアを交えて、驚きと敬意をもってそれぞれの方の人生を紹介しています。


みなさんも、脳の不思議、奥深さについて考えざるをえない一冊です。